ビショッカーの侵略 おにぎりの場合
鬼斬梅子は、いわゆるお嬢様であった。ご先祖様は嘘かホントかずっとたどっていけば桃太郎にたどり着くのだとは、よくよく乳母から聞かされた言葉である。
つややかな黒髪と品のある佇まいはまさにお嬢様然としていて、小さい頃から厳しい躾とお稽古の数々をこなしてきた賜物であった。彼女自身、家の恥に、両親の誇りになるようにと務めていた部分も往々にしてある。だから、彼女のささやかな趣味は誰にも秘密なのだった。
「誰にも言えませんよね。まさか、コンビニで買い食いしているなんて」
お嬢様である彼女がコンビニに行く理由などない。生活雑貨などは自分で見繕うことなどないし、料理やお菓子だってそうだ。出されるものは全て家で雇われたプロの料理人がつくり上げる完璧で、見た目にも美味しい食べ物立ち。だが、その中に彼女の大好きな食べ物は決して入っていないのだ。
「もぐもぐ。ああ、美味しい。海苔がパリっときいて、梅の味が舌にとろけて」
彼女が大好きなのは、彼女の名前にもなっている梅おにぎりだった。たったそれだけの簡単なものなのに、シェフは決して作ってくれない。一度だけ自分で挑戦した事もあったが、何度やっても上手に作ることは出来ずにポロポロと崩れてしまうのだ。だから彼女は、こっそりとコンビニへやってきて、その味を楽しんでいたのだ。
梅、おかか、鮭、昆布に明太子にシーチキン。どんな味でもある。彼女にとってコンビニは食の宝箱だった。
そう、過去形。彼女はある時、その買い食いの様子を使用人に見られ、親に報告されてしまったのだ。親はたいそう悲しむやら怒るやら。彼女の言い訳はコレッポチも聞いてもらえず、反省するまでということで屋敷に閉じ込められて美味しい料理の数々が振る舞われた。やれフカヒレだ、トリュフだ、フォアグラだと。
「違うの、ちがうんです。私が食べたいのはもっと……もっと……」
ああ美味しい、なんて贅沢な味。けれどけれど、それは違う。私が食べたいものではないの。私は、私は……
「真っ白なお米で作られた。三角形のおにぎりが食べたいだけなの!!」
広い部屋の只中で叫ぶ。防音もバッチリの部屋だから、その声は誰にも聞こえない。
はずだった……
『良い魂の響きじゃ。妾の元へと確かに届いたぞ』
「え……?」
そんな言葉が脳内に届いたその瞬間。梅子は……気づけば見知らぬ空間にいた。
「どこ、ここ……」
明らかに家の中ではない、それどころか……魂の何処かで理解している。この眼の前に広がる景色は、地球上に存在するそれではない。第一、大きさが違うのだ。彼女が立っているのはどこだ、足元に帰ってくるのは硬質的で艶やかな感触。それがお皿などの陶器だとはよく知っている。だが、その大きさは何だ。彼女の部屋ほどもあろうか。そんなお皿があるなんて聞いたこともないし、あったところで今この場で登場する理由がわからない。
遠くは歪んだように朧げに見えていて、そして目の前に……
『ここか……?妾の食卓よ』
目の前に、ぞっとするほどに美しい女がいた。長い髪、気だるげで物憂げな表情。つややかな唇に、魔性のこもった濡れた瞳。見るだけで吸い込まれそうだ。そして何よりその女は……大きかった。彼女の何倍もあろうか。
仮に、もし仮に更に並べられた食材の視界を借りることができたら、人間はそう映るだろうか。なんてことを思った。
『おにぎり……この島国ではメジャーな食べ物じゃな。大抵のものは単純であるほど奥深い。だが……妾に出来ぬ料理はない』
そういって、大きな大きな手が優しく彼女の頭を撫でる。その瞬間、彼女は全てを理解した。ああ、自分はなんと光栄なのだろうか。この世界でもっとも美しい食を求めた女王に食べていただけるなんて。
自ら服を脱ぎ、下着を脱ぐ。裸を見せたことなんて、親にだって数度しかない。それを見知らぬ相手など、ありえない話だった。だが、彼女はためらいなくそれをする。単純な話だ。服を着ていては、上手く料理できないじゃないか。皮は最初に剥くものである。
服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になった梅子は誇らしげに胸を張って女王を見上げた。
『良い食材じゃ』
女王は満足気に頷いて、そして……彼女の体を無造作に鷲掴みにした。
「あっ」
無造作だ、加減もなければ容赦もない、ただあったから触って拾い上げただけというだけの話。それだけで彼女の首は折れ、背骨はバキバキにネジ曲がった。だが構わない、彼女の体は既に白くつややかなご飯の塊になっていたからだ。ご飯は痛がらないし、骨もない。
食欲をそそる炊きたてご飯のいい匂いに包まれて彼女は幸せな気分だった。
「ああ、私の体がごはんに。炊きたてご飯になってしまっている」
恍惚とした表情で言うと、次の幸せは瞬間に訪れた。
ギュムッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ
「あ゛っ❤あ゛っ❤あ゛っ❤あ゛っ❤」
大きな手が彼女の体を覆い隠し包み隠す、そして、それを固めるように思い切り力を込めたのだ。至福の時であった。ご飯となった己の体が、今度はおにぎりとして生まれ変わろうとしている。おにぎり、おにぎりだ。おっぱいもおしりも顔もあそこも全部、全部握られて美味しい美味しい三角おにぎりに変わってしまう。
それはきっと、世界で一番美味しいおにぎりだ。そのおにぎりになれる。それ以上の幸福がこの世にあろうか。
「な゛い❤ぜっだいないいいい❤」
ない、絶対にありえない。これは誰も知らない彼女だけの幸福だ。幸せに意識が溶けていく、心地よい感覚に魂がが人の形を変えられていく。握られていく、握られていく。
彼女はそのさなか確かに見た、ぽっこりと膨れた女王のお腹を、そこにいくつも浮かび上がる女の顔を。誰も彼もが至福に溶けた表情を浮かべた顔たち。
「もうすぐ私も、そこに……!!」
そして、女王は手を開く。白い美しい手に隠されていたのは同じく白く美しいおにぎりだ。
数学者が卒倒するほどに美しい三角形で作られたおにぎりだ。だがそれは普通のおにぎりではない。当然だ、素材が違う。見れば、それが人間であるということが見て取れる。人間を無理やり三角形にすればおそらくこうなる。手足も、胸もあそこも顔も、なんとなくわかってしまう。
彼女は己の作り上げた作品の出来に満足して頷くと……それをはむと口に加えた。まずは半分噛みちぎる。中から出てきたのは梅干しだ。それこそが梅子の結晶化した魂である。女王はおにぎりをたべ、噛み締めながらいよいよその梅を歯の先でつまみ上げた。
そして、ねっとりと舌を絡ませて梅肉を小削ぎ取り種にしみた味を堪能する。
ああ、これがどれほどの快楽と幸福であるが想像もつくまい。敬愛する女王からの熱烈で濃厚なキス。コレを愛と言わずになんという。梅子の体は作り変えられていく。何度何度も絶頂味わって、魂を蕩けさせながら。
やがて完食した女王は、己の腹に浮かび上がる新たな顔を撫で上げた。至福の快楽にとろけた堕ちた女の顔を。鬼斬梅子だったものの顔を。
「次は、そなたのおにぎりを食べさせておくれ」
そして……おにぎり料理怪人ニギライスは誕生した。
つややかな黒髪と品のある佇まいはまさにお嬢様然としていて、小さい頃から厳しい躾とお稽古の数々をこなしてきた賜物であった。彼女自身、家の恥に、両親の誇りになるようにと務めていた部分も往々にしてある。だから、彼女のささやかな趣味は誰にも秘密なのだった。
「誰にも言えませんよね。まさか、コンビニで買い食いしているなんて」
お嬢様である彼女がコンビニに行く理由などない。生活雑貨などは自分で見繕うことなどないし、料理やお菓子だってそうだ。出されるものは全て家で雇われたプロの料理人がつくり上げる完璧で、見た目にも美味しい食べ物立ち。だが、その中に彼女の大好きな食べ物は決して入っていないのだ。
「もぐもぐ。ああ、美味しい。海苔がパリっときいて、梅の味が舌にとろけて」
彼女が大好きなのは、彼女の名前にもなっている梅おにぎりだった。たったそれだけの簡単なものなのに、シェフは決して作ってくれない。一度だけ自分で挑戦した事もあったが、何度やっても上手に作ることは出来ずにポロポロと崩れてしまうのだ。だから彼女は、こっそりとコンビニへやってきて、その味を楽しんでいたのだ。
梅、おかか、鮭、昆布に明太子にシーチキン。どんな味でもある。彼女にとってコンビニは食の宝箱だった。
そう、過去形。彼女はある時、その買い食いの様子を使用人に見られ、親に報告されてしまったのだ。親はたいそう悲しむやら怒るやら。彼女の言い訳はコレッポチも聞いてもらえず、反省するまでということで屋敷に閉じ込められて美味しい料理の数々が振る舞われた。やれフカヒレだ、トリュフだ、フォアグラだと。
「違うの、ちがうんです。私が食べたいのはもっと……もっと……」
ああ美味しい、なんて贅沢な味。けれどけれど、それは違う。私が食べたいものではないの。私は、私は……
「真っ白なお米で作られた。三角形のおにぎりが食べたいだけなの!!」
広い部屋の只中で叫ぶ。防音もバッチリの部屋だから、その声は誰にも聞こえない。
はずだった……
『良い魂の響きじゃ。妾の元へと確かに届いたぞ』
「え……?」
そんな言葉が脳内に届いたその瞬間。梅子は……気づけば見知らぬ空間にいた。
「どこ、ここ……」
明らかに家の中ではない、それどころか……魂の何処かで理解している。この眼の前に広がる景色は、地球上に存在するそれではない。第一、大きさが違うのだ。彼女が立っているのはどこだ、足元に帰ってくるのは硬質的で艶やかな感触。それがお皿などの陶器だとはよく知っている。だが、その大きさは何だ。彼女の部屋ほどもあろうか。そんなお皿があるなんて聞いたこともないし、あったところで今この場で登場する理由がわからない。
遠くは歪んだように朧げに見えていて、そして目の前に……
『ここか……?妾の食卓よ』
目の前に、ぞっとするほどに美しい女がいた。長い髪、気だるげで物憂げな表情。つややかな唇に、魔性のこもった濡れた瞳。見るだけで吸い込まれそうだ。そして何よりその女は……大きかった。彼女の何倍もあろうか。
仮に、もし仮に更に並べられた食材の視界を借りることができたら、人間はそう映るだろうか。なんてことを思った。
『おにぎり……この島国ではメジャーな食べ物じゃな。大抵のものは単純であるほど奥深い。だが……妾に出来ぬ料理はない』
そういって、大きな大きな手が優しく彼女の頭を撫でる。その瞬間、彼女は全てを理解した。ああ、自分はなんと光栄なのだろうか。この世界でもっとも美しい食を求めた女王に食べていただけるなんて。
自ら服を脱ぎ、下着を脱ぐ。裸を見せたことなんて、親にだって数度しかない。それを見知らぬ相手など、ありえない話だった。だが、彼女はためらいなくそれをする。単純な話だ。服を着ていては、上手く料理できないじゃないか。皮は最初に剥くものである。
服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になった梅子は誇らしげに胸を張って女王を見上げた。
『良い食材じゃ』
女王は満足気に頷いて、そして……彼女の体を無造作に鷲掴みにした。
「あっ」
無造作だ、加減もなければ容赦もない、ただあったから触って拾い上げただけというだけの話。それだけで彼女の首は折れ、背骨はバキバキにネジ曲がった。だが構わない、彼女の体は既に白くつややかなご飯の塊になっていたからだ。ご飯は痛がらないし、骨もない。
食欲をそそる炊きたてご飯のいい匂いに包まれて彼女は幸せな気分だった。
「ああ、私の体がごはんに。炊きたてご飯になってしまっている」
恍惚とした表情で言うと、次の幸せは瞬間に訪れた。
ギュムッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ
「あ゛っ❤あ゛っ❤あ゛っ❤あ゛っ❤」
大きな手が彼女の体を覆い隠し包み隠す、そして、それを固めるように思い切り力を込めたのだ。至福の時であった。ご飯となった己の体が、今度はおにぎりとして生まれ変わろうとしている。おにぎり、おにぎりだ。おっぱいもおしりも顔もあそこも全部、全部握られて美味しい美味しい三角おにぎりに変わってしまう。
それはきっと、世界で一番美味しいおにぎりだ。そのおにぎりになれる。それ以上の幸福がこの世にあろうか。
「な゛い❤ぜっだいないいいい❤」
ない、絶対にありえない。これは誰も知らない彼女だけの幸福だ。幸せに意識が溶けていく、心地よい感覚に魂がが人の形を変えられていく。握られていく、握られていく。
彼女はそのさなか確かに見た、ぽっこりと膨れた女王のお腹を、そこにいくつも浮かび上がる女の顔を。誰も彼もが至福に溶けた表情を浮かべた顔たち。
「もうすぐ私も、そこに……!!」
そして、女王は手を開く。白い美しい手に隠されていたのは同じく白く美しいおにぎりだ。
数学者が卒倒するほどに美しい三角形で作られたおにぎりだ。だがそれは普通のおにぎりではない。当然だ、素材が違う。見れば、それが人間であるということが見て取れる。人間を無理やり三角形にすればおそらくこうなる。手足も、胸もあそこも顔も、なんとなくわかってしまう。
彼女は己の作り上げた作品の出来に満足して頷くと……それをはむと口に加えた。まずは半分噛みちぎる。中から出てきたのは梅干しだ。それこそが梅子の結晶化した魂である。女王はおにぎりをたべ、噛み締めながらいよいよその梅を歯の先でつまみ上げた。
そして、ねっとりと舌を絡ませて梅肉を小削ぎ取り種にしみた味を堪能する。
ああ、これがどれほどの快楽と幸福であるが想像もつくまい。敬愛する女王からの熱烈で濃厚なキス。コレを愛と言わずになんという。梅子の体は作り変えられていく。何度何度も絶頂味わって、魂を蕩けさせながら。
やがて完食した女王は、己の腹に浮かび上がる新たな顔を撫で上げた。至福の快楽にとろけた堕ちた女の顔を。鬼斬梅子だったものの顔を。
「次は、そなたのおにぎりを食べさせておくれ」
そして……おにぎり料理怪人ニギライスは誕生した。
マット憑き神の仕業だ!!
この学校の体操部のエースといえば、はいったばかりの一年生だって知っている有名人だ。
文武両道容姿端麗その上家まで金持ちという、絵に書いたような完璧超人。
性格も優しいというのだから、まったくもって非の打ち所が無い。
西島茜の名は、それくらい有名だった。
短い髪に汗を散らせて、その日も茜は練習に励んでいた。
エースでいる秘訣は誰よりも練習すること。
彼女はそう信じ、それを実践している。
日がくれて、学校からほとんど人がいなくなる時まで彼女はずっと練習を続けるのだ。
しかし、彼女のために体育館を占めないというのも迷惑だ。
だから彼女は人知れず、一人で練習できるところを見つけていた。
学校から少し離れたところにある、第二体育館。
普段使われることのない古びたそこは、練習にはもってこいだったのだ。
激しく動き、じっとりと汗をかく。
疲れを感じてマットに倒れこめば、仄かな冷たさが心地いい。
「よし、もうひと頑張り!!」
もう少しだけ練習しようと飛び起きた彼女の背後から、声が聞こえた。
「ガンバルネ」
驚いて振り返り、そこに居た姿に再び驚く。
そこに居たのは、なんと言っていいのだろうか。
顔の生えたマット、とでも言えばいいのだろうか。
いままで彼女が練習に使っていたマットが起き上がり、こちらを見ていたのだ。
「え、なに!?」
驚く彼女に、マットは微笑みかける。
「私モ、マット遊ビシタイナァ」
これは一体何の冗談かとはてなマークを浮かべる彼女の前で、マットはくるりと己の身を丸めた。
太い円柱のような形になったマットは、そのまま彼女に向かってゴロゴロと転がってくる。
「転ガルのは、得意ダヨ」
あっという間もない出来事、虚を突かれて動く、逃げるということすら頭に浮かばなかった彼女は何も出来ないまま丸まったマットにひかれてしまった。
すると、なんとも不思議なことに、彼女の体がのし棒で伸ばされるようにピローンと平らになってしまったのだ。
「え、なんで私。平になってるの!?」
驚き、声を上げるがどうしようもない。
彼女の体は、一切動かないのだ。
「アハハー、コロコロー」
通り過ぎたマットは再び反対に転がって戻ってきた。
何度も何度も彼女の上を転がって往復する。
そのたびに彼女の体は薄く伸ばされていき、気づけばマットと同じ大きさ厚さにまでなってしまっていた。
(私、マットになっちゃったの?)
考えることはまだできた、けれどもう何も語ることはできない。
なぜなら彼女はマットになってしまったからだ。
「フゥ、楽シカッタ」
ひと通り転がったマットは、満足したような声を上げた。
(戻れる!?)
と期待したのだが。
「オ片ヅケオ片ヅケ」
そんなことはなく、マットの手によって彼女の体は綺麗に折りたたまれてしまう。
そして、そのまま体育倉庫に放り込まれてしまったのだ。
(ああ、誰か助けて・・・)
薄れ行く意識の中、彼女は助けを求めていた。
次の日、体育の授業があった。
今日のメニューはマット体操だ。
生徒たちはその準備に、ブツクサと言いながら体育倉庫からマットを取り出して並べる。
その中に、一際カラフルなマットがあった。
肌色や黒、更には体操のレオタードのような模様まで付いている。
そんな異様なマットに、誰も違和感を抱かず。
今日もめんどくさそうにその上で汗を流すのだった。
誰にも聞こえない、想像すらしない。
マットが、悲鳴を上げているだなんて。
(止めて、私人間だよ。転がらないで、汗を染み込ませないで!!)
マットになっても尚、西島茜は己の意思を保っていた。
己は人間であると感じていた。
だというのに、誰も気づかない。
彼女の上で飛んだりはねたり、時には寝そべって休憩したりしているのだ。
けれど彼女の中には、それを愛おしく思う意識も生まれ始めていた。
その日の授業は終わり、彼女は他のマット共にたたまれて体育倉庫にいれられた。
それから毎日のように彼女は誰かに転がられる日々を送ることになったのだ。
(ケガシナイヨウニネ、アブナイヨ)
そしていつの間にか彼女は、マットになっていた。
こころ、その精神までも。
自らの上で遊ぶ者たちを愛おしく思い、その安全を願う。
少し前からは想像も出来なかったことだ。
染み込む汗すらも、愛おしい。
それから、いくらの時がたっただろうか。
彼女はひとつの思いに支配され始めていた。
(私モ、遊ビタイ)
マットで転がって遊びたい。
そう、かつてのように。
かつてであった、あのマット憑き神の様に……
おそらくその日はやがて、来るのだろう。
そう、遠くない内に。
というわけで縁日事変以外の憑き神です。
文武両道容姿端麗その上家まで金持ちという、絵に書いたような完璧超人。
性格も優しいというのだから、まったくもって非の打ち所が無い。
西島茜の名は、それくらい有名だった。
短い髪に汗を散らせて、その日も茜は練習に励んでいた。
エースでいる秘訣は誰よりも練習すること。
彼女はそう信じ、それを実践している。
日がくれて、学校からほとんど人がいなくなる時まで彼女はずっと練習を続けるのだ。
しかし、彼女のために体育館を占めないというのも迷惑だ。
だから彼女は人知れず、一人で練習できるところを見つけていた。
学校から少し離れたところにある、第二体育館。
普段使われることのない古びたそこは、練習にはもってこいだったのだ。
激しく動き、じっとりと汗をかく。
疲れを感じてマットに倒れこめば、仄かな冷たさが心地いい。
「よし、もうひと頑張り!!」
もう少しだけ練習しようと飛び起きた彼女の背後から、声が聞こえた。
「ガンバルネ」
驚いて振り返り、そこに居た姿に再び驚く。
そこに居たのは、なんと言っていいのだろうか。
顔の生えたマット、とでも言えばいいのだろうか。
いままで彼女が練習に使っていたマットが起き上がり、こちらを見ていたのだ。
「え、なに!?」
驚く彼女に、マットは微笑みかける。
「私モ、マット遊ビシタイナァ」
これは一体何の冗談かとはてなマークを浮かべる彼女の前で、マットはくるりと己の身を丸めた。
太い円柱のような形になったマットは、そのまま彼女に向かってゴロゴロと転がってくる。
「転ガルのは、得意ダヨ」
あっという間もない出来事、虚を突かれて動く、逃げるということすら頭に浮かばなかった彼女は何も出来ないまま丸まったマットにひかれてしまった。
すると、なんとも不思議なことに、彼女の体がのし棒で伸ばされるようにピローンと平らになってしまったのだ。
「え、なんで私。平になってるの!?」
驚き、声を上げるがどうしようもない。
彼女の体は、一切動かないのだ。
「アハハー、コロコロー」
通り過ぎたマットは再び反対に転がって戻ってきた。
何度も何度も彼女の上を転がって往復する。
そのたびに彼女の体は薄く伸ばされていき、気づけばマットと同じ大きさ厚さにまでなってしまっていた。
(私、マットになっちゃったの?)
考えることはまだできた、けれどもう何も語ることはできない。
なぜなら彼女はマットになってしまったからだ。
「フゥ、楽シカッタ」
ひと通り転がったマットは、満足したような声を上げた。
(戻れる!?)
と期待したのだが。
「オ片ヅケオ片ヅケ」
そんなことはなく、マットの手によって彼女の体は綺麗に折りたたまれてしまう。
そして、そのまま体育倉庫に放り込まれてしまったのだ。
(ああ、誰か助けて・・・)
薄れ行く意識の中、彼女は助けを求めていた。
次の日、体育の授業があった。
今日のメニューはマット体操だ。
生徒たちはその準備に、ブツクサと言いながら体育倉庫からマットを取り出して並べる。
その中に、一際カラフルなマットがあった。
肌色や黒、更には体操のレオタードのような模様まで付いている。
そんな異様なマットに、誰も違和感を抱かず。
今日もめんどくさそうにその上で汗を流すのだった。
誰にも聞こえない、想像すらしない。
マットが、悲鳴を上げているだなんて。
(止めて、私人間だよ。転がらないで、汗を染み込ませないで!!)
マットになっても尚、西島茜は己の意思を保っていた。
己は人間であると感じていた。
だというのに、誰も気づかない。
彼女の上で飛んだりはねたり、時には寝そべって休憩したりしているのだ。
けれど彼女の中には、それを愛おしく思う意識も生まれ始めていた。
その日の授業は終わり、彼女は他のマット共にたたまれて体育倉庫にいれられた。
それから毎日のように彼女は誰かに転がられる日々を送ることになったのだ。
(ケガシナイヨウニネ、アブナイヨ)
そしていつの間にか彼女は、マットになっていた。
こころ、その精神までも。
自らの上で遊ぶ者たちを愛おしく思い、その安全を願う。
少し前からは想像も出来なかったことだ。
染み込む汗すらも、愛おしい。
それから、いくらの時がたっただろうか。
彼女はひとつの思いに支配され始めていた。
(私モ、遊ビタイ)
マットで転がって遊びたい。
そう、かつてのように。
かつてであった、あのマット憑き神の様に……
おそらくその日はやがて、来るのだろう。
そう、遠くない内に。
というわけで縁日事変以外の憑き神です。
設定とか裏話とか2
それでは今更先日更新した七姫同盟2話の話を
魔法姫マギ
今回の目玉、ザ・お姫様。
ドリルヘア、ふんわりスカート、わたくし口調に気高すぎるプライド、胸はでかいが尻もでかい。
折るには絶好の人材ですね。
書いているうちにやたらと強キャラになりました、姫でタイマンやらせてもいい所行きそうな程度には。
後手に回るのが嫌いとか、他人の指図を受けたくないとかいう設定があったけどいまいち描写しきれていない。
ミケランジェロ・ダーク
通称ミケ、名前は音楽家だから。
音楽家なので笛をうまく使えます、ふぇらは大得意、させるのもすき。
一番好きなのは自分の極太のやつで他人の喉を拡張してるとき
マギとディアナ
実は最初の同盟を組んだ二人です。
お互いに一番仲がいい、このへんもうまく描写できていない。
全体的に色々と詰め込みすぎたかなぁと。
ごちゃごちゃしすぎですね、次回以降はすっきりさせる予定です。
それでは見てくれた方ありがとうございました
魔法姫マギ
今回の目玉、ザ・お姫様。
ドリルヘア、ふんわりスカート、わたくし口調に気高すぎるプライド、胸はでかいが尻もでかい。
折るには絶好の人材ですね。
書いているうちにやたらと強キャラになりました、姫でタイマンやらせてもいい所行きそうな程度には。
後手に回るのが嫌いとか、他人の指図を受けたくないとかいう設定があったけどいまいち描写しきれていない。
ミケランジェロ・ダーク
通称ミケ、名前は音楽家だから。
音楽家なので笛をうまく使えます、ふぇらは大得意、させるのもすき。
一番好きなのは自分の極太のやつで他人の喉を拡張してるとき
マギとディアナ
実は最初の同盟を組んだ二人です。
お互いに一番仲がいい、このへんもうまく描写できていない。
全体的に色々と詰め込みすぎたかなぁと。
ごちゃごちゃしすぎですね、次回以降はすっきりさせる予定です。
それでは見てくれた方ありがとうございました