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ビショッカーの侵略 おにぎりの場合

鬼斬梅子は、いわゆるお嬢様であった。ご先祖様は嘘かホントかずっとたどっていけば桃太郎にたどり着くのだとは、よくよく乳母から聞かされた言葉である。
つややかな黒髪と品のある佇まいはまさにお嬢様然としていて、小さい頃から厳しい躾とお稽古の数々をこなしてきた賜物であった。彼女自身、家の恥に、両親の誇りになるようにと務めていた部分も往々にしてある。だから、彼女のささやかな趣味は誰にも秘密なのだった。

「誰にも言えませんよね。まさか、コンビニで買い食いしているなんて」

お嬢様である彼女がコンビニに行く理由などない。生活雑貨などは自分で見繕うことなどないし、料理やお菓子だってそうだ。出されるものは全て家で雇われたプロの料理人がつくり上げる完璧で、見た目にも美味しい食べ物立ち。だが、その中に彼女の大好きな食べ物は決して入っていないのだ。

「もぐもぐ。ああ、美味しい。海苔がパリっときいて、梅の味が舌にとろけて」

彼女が大好きなのは、彼女の名前にもなっている梅おにぎりだった。たったそれだけの簡単なものなのに、シェフは決して作ってくれない。一度だけ自分で挑戦した事もあったが、何度やっても上手に作ることは出来ずにポロポロと崩れてしまうのだ。だから彼女は、こっそりとコンビニへやってきて、その味を楽しんでいたのだ。

梅、おかか、鮭、昆布に明太子にシーチキン。どんな味でもある。彼女にとってコンビニは食の宝箱だった。

そう、過去形。彼女はある時、その買い食いの様子を使用人に見られ、親に報告されてしまったのだ。親はたいそう悲しむやら怒るやら。彼女の言い訳はコレッポチも聞いてもらえず、反省するまでということで屋敷に閉じ込められて美味しい料理の数々が振る舞われた。やれフカヒレだ、トリュフだ、フォアグラだと。

「違うの、ちがうんです。私が食べたいのはもっと……もっと……」

ああ美味しい、なんて贅沢な味。けれどけれど、それは違う。私が食べたいものではないの。私は、私は……

「真っ白なお米で作られた。三角形のおにぎりが食べたいだけなの!!」

広い部屋の只中で叫ぶ。防音もバッチリの部屋だから、その声は誰にも聞こえない。
はずだった……

『良い魂の響きじゃ。妾の元へと確かに届いたぞ』

「え……?」

そんな言葉が脳内に届いたその瞬間。梅子は……気づけば見知らぬ空間にいた。

「どこ、ここ……」

明らかに家の中ではない、それどころか……魂の何処かで理解している。この眼の前に広がる景色は、地球上に存在するそれではない。第一、大きさが違うのだ。彼女が立っているのはどこだ、足元に帰ってくるのは硬質的で艶やかな感触。それがお皿などの陶器だとはよく知っている。だが、その大きさは何だ。彼女の部屋ほどもあろうか。そんなお皿があるなんて聞いたこともないし、あったところで今この場で登場する理由がわからない。
遠くは歪んだように朧げに見えていて、そして目の前に……

『ここか……?妾の食卓よ』

目の前に、ぞっとするほどに美しい女がいた。長い髪、気だるげで物憂げな表情。つややかな唇に、魔性のこもった濡れた瞳。見るだけで吸い込まれそうだ。そして何よりその女は……大きかった。彼女の何倍もあろうか。
仮に、もし仮に更に並べられた食材の視界を借りることができたら、人間はそう映るだろうか。なんてことを思った。

『おにぎり……この島国ではメジャーな食べ物じゃな。大抵のものは単純であるほど奥深い。だが……妾に出来ぬ料理はない』

そういって、大きな大きな手が優しく彼女の頭を撫でる。その瞬間、彼女は全てを理解した。ああ、自分はなんと光栄なのだろうか。この世界でもっとも美しい食を求めた女王に食べていただけるなんて。

自ら服を脱ぎ、下着を脱ぐ。裸を見せたことなんて、親にだって数度しかない。それを見知らぬ相手など、ありえない話だった。だが、彼女はためらいなくそれをする。単純な話だ。服を着ていては、上手く料理できないじゃないか。皮は最初に剥くものである。

服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になった梅子は誇らしげに胸を張って女王を見上げた。

『良い食材じゃ』

女王は満足気に頷いて、そして……彼女の体を無造作に鷲掴みにした。

「あっ」

無造作だ、加減もなければ容赦もない、ただあったから触って拾い上げただけというだけの話。それだけで彼女の首は折れ、背骨はバキバキにネジ曲がった。だが構わない、彼女の体は既に白くつややかなご飯の塊になっていたからだ。ご飯は痛がらないし、骨もない。
食欲をそそる炊きたてご飯のいい匂いに包まれて彼女は幸せな気分だった。

「ああ、私の体がごはんに。炊きたてご飯になってしまっている」

恍惚とした表情で言うと、次の幸せは瞬間に訪れた。

ギュムッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ

「あ゛っ❤あ゛っ❤あ゛っ❤あ゛っ❤」

大きな手が彼女の体を覆い隠し包み隠す、そして、それを固めるように思い切り力を込めたのだ。至福の時であった。ご飯となった己の体が、今度はおにぎりとして生まれ変わろうとしている。おにぎり、おにぎりだ。おっぱいもおしりも顔もあそこも全部、全部握られて美味しい美味しい三角おにぎりに変わってしまう。

それはきっと、世界で一番美味しいおにぎりだ。そのおにぎりになれる。それ以上の幸福がこの世にあろうか。

「な゛い❤ぜっだいないいいい❤」

ない、絶対にありえない。これは誰も知らない彼女だけの幸福だ。幸せに意識が溶けていく、心地よい感覚に魂がが人の形を変えられていく。握られていく、握られていく。
彼女はそのさなか確かに見た、ぽっこりと膨れた女王のお腹を、そこにいくつも浮かび上がる女の顔を。誰も彼もが至福に溶けた表情を浮かべた顔たち。

「もうすぐ私も、そこに……!!」

そして、女王は手を開く。白い美しい手に隠されていたのは同じく白く美しいおにぎりだ。
数学者が卒倒するほどに美しい三角形で作られたおにぎりだ。だがそれは普通のおにぎりではない。当然だ、素材が違う。見れば、それが人間であるということが見て取れる。人間を無理やり三角形にすればおそらくこうなる。手足も、胸もあそこも顔も、なんとなくわかってしまう。
彼女は己の作り上げた作品の出来に満足して頷くと……それをはむと口に加えた。まずは半分噛みちぎる。中から出てきたのは梅干しだ。それこそが梅子の結晶化した魂である。女王はおにぎりをたべ、噛み締めながらいよいよその梅を歯の先でつまみ上げた。
そして、ねっとりと舌を絡ませて梅肉を小削ぎ取り種にしみた味を堪能する。

ああ、これがどれほどの快楽と幸福であるが想像もつくまい。敬愛する女王からの熱烈で濃厚なキス。コレを愛と言わずになんという。梅子の体は作り変えられていく。何度何度も絶頂味わって、魂を蕩けさせながら。

やがて完食した女王は、己の腹に浮かび上がる新たな顔を撫で上げた。至福の快楽にとろけた堕ちた女の顔を。鬼斬梅子だったものの顔を。

「次は、そなたのおにぎりを食べさせておくれ」


そして……おにぎり料理怪人ニギライスは誕生した。









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