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シティ・クロニクル

世界一の都市だと、人は言う。
いや、それこそが都市であり都会であると。
それ以外は、都市ではないとすら言うのだ。
だから、その都市はただ都市とだけ呼ばれる。
シティ、とだけ。



シティで手に入らないものはない。
金も名誉も、おそらく考えうるすべてを、シティは与えてくれる。
おそらくきっと全てはそこにあるから、それ故に上を見ればキリがない。
男は果てしなく空へと伸びるような錯覚を覚える摩天楼を見上げて、すぐに視線を落とした。
広々とした室内は、やや成金趣味な調度品で彩られている。
見るからに高そうな壺や絵画などが並び、金で彩られた細工がいたるところに顔をのぞかせているのだ。
買いあさった高級銘柄のワインを傾け、男は柔らかいソファに重たいその身を沈めた。
自分が金持ちであるかと聞かれたら、もちろんイエスと答える。
そこらの国なら、国有数のと言ってもいいほどに、男は金と権力を手にしていた。
しかし……
男は煙臭いため息を吐いた。
そして、ゆっくりと天井を見上げる。
このビルにもまだ、ずっとずっと上の階が存在する。
金も権力も、あると思っていた。
しかしここにおいて、男のもっているそれらはちっぽけなものに過ぎず。
上にはずっと、上が存在するのだ。
ゴクリ、とワインを飲み干す。
ワインの味などわからない。
ただそれが、有名であったというだけで買って、飲んでいる。
決してたどり着くことのできぬ領域が、彼の上には広がっていて。
そこに手が届くはずもないと知りながら、彼はただ手を伸ばした。
何をつかむこともなく、それは二度三度と宙を掻いて、落ちる。
ため息をひとつ、ゆっくりと吐いた男は気だるげにリモコンを手に取った。
壁一面に埋め込まれ映像素子が反応し、映像を映し出す。
夜も遅いということもあって、チャンネルをどれだけ回しても目ぼしい番組はみつからない。
ようやく手を止めたのは、とあるニュース番組だ。
一日の出来事を流しで伝えるその番組が写す多くは、女性の姿だった。
誰も彼もが派手な衣装に身を包んでいる。
聞こえてくるのは、そんな彼女たちが行った武勇伝だ。
龍虎が悪徳議員を捕まえただの、狼が少年を助けただの、そんな話が耳に飛び込んでくる。
男はその光景を、様々な感情を込めて眺めた。
何かといえば、劣情の分が多めなようではあるが。
それも致し方ないことではあるかもしれない、画面に映る女性たちは誰も彼もが絶世とでも言っていいほどの美女なのだから。
巨大都市、シティ。
華やかできらびやかで、世界のすべてがそこにある。
それ故、そこには数えきれないほどの闇が内包されているのだ。
一括りにして、悪。
世界で最も華やかな都市は、世界で最も恐ろしい都市でもあった。
だから、というわけでもないのだろうが。
この都市では、多くの異能者が生まれるのだそうだ。
原因もわからない、ただ事実だけがそこにある。
果たしてその力をいかなるベクトルに使うのか、その方向性こそが、そこに住まう人々からの評価を分ける。
それこそが善と悪であり、このシティにおいて激しくぶつかり合う力に他ならない。
幾数多の悪の組織、そしてたくさんの正義の組織が日夜戦っているのだ。
テレビに写っているのは、そんな正義の組織のヒロインだ。
どこか色欲を煽るような格好をしている彼女たちの姿に、思わず息子が鎌首をもたげてしまう。
いやらしく舌なめずりをした男は、その姿が消えるまで画面を凝視していた。



男の寝室は、意外なほどに小奇麗としていた。
他の部屋にあったような悪趣味な調度品はなく、ただベッドと、幾つかの本棚がそこにあるだけだ。
まるで、その男の部屋ではないかのような。
それもそうだろう、なんせその部屋は実際に彼の寝室ではなかったのだから。
酒気か、あるいは興奮か、頬を赤らめた男はその部屋に入ると本棚の前にたった。
定められた順に本を動かすと、音もなく本棚が動きその後ろに隠されていた扉が顕になる。
男は卑下な笑みを浮かべ、その中へと足を踏み入れる。
その中はまた、他の部屋と雰囲気がかけ離れていた。
寝室とは到底思えないほどに明るい電灯が部屋中を真っ白く輝かせていたのだ。
そして、くぐもった低い音が重なりあうように響いていた。
部屋の中央には大きなベッドがひとつ。
男はそのベッドに腰掛けると、満足そうな笑みを浮かべて周囲を見回した。
周囲、その部屋を構成する壁を。
その壁は、なんとも悪趣味なものであった。
壁一面につき、およそ三つの彫像が、そこには存在していたのだ。
そのどれもが卑猥な格好をしていて……そして、そのどれもが呼吸を行なっていた。
一瞬だけそれを見れば、壁に掘られた彫像だと思うかもしれない。
けれど、それをじっくりと見ればそうでないことがわかる。
薄い半透明の壁、あるいはゴムとでもいったほうがいいのだろうか。
弾力のあるその壁に挟み込まれた、人なのだ。
胸が動く、目が動く、呼吸も聞こえる。
どんな精巧な人形にだってありえないそれらの動きが、その事実を教えている。
そう、そこは囚われの人間たちで作られた部屋なのだ。
そしてそのどれもが、先ほどのテレビに写っているような派手な格好をしているのだった。
正義のヒロイン、巷で彼女たちはそう呼ばれている。
誰も彼もが美貌にして、魅力的な体の持ち主だ。
悪を一蹴する力の持ち主ではあるが、しかし、囚われている彼女達からはその片鱗も感じ取ることはできない。
彼女たちはもはや、卑猥なオブジェに過ぎなかったのだ。
このシティで手に入らないものはない。
たとえそれが邪な欲望から出てきたものであっても。
例えば、そう、正義のヒロインを自らの物として扱いたい、というものであっても。
その対価さえ支払うことができなるなら、それは確かに叶えられるのだ。
そして男は、自らの劣情を解消するために少なくない対価を支払った。
その結果、彼は手に入れたのだ。
この空間を。
バキュームベッドに捕らえられた惨めなヒロインたちを。
ねっちりと丹念に調教を施されているヒロインたちは、反抗の意思を持つことすらできない。
ただ、思考の片隅で「助けて」という言葉を反芻しながら。
じんわりと与えられる快楽の中で、自らがもはやオブジェでしかないという事実を彼女たちはそのまま受け入れるしかないのだった。



男がベッドの傍らに置かれているコンソールを操作すると部屋に動きが起きた。
バキュームベッドの一つがその形を変えたのだ。
平面的だったその形が絞られるように円筒形に変わり、ぴっちりとあますことなく体をコーティングする。
気をつけの姿勢で強制的に直立させられた格好になったヒロインは、体の凹凸を余すところなくさらけ出しているようだ。
できの悪いマネキンのようになってしまった彼女はそのまま装置に運ばれてベッドの上に放り出された。
身じろぎ一つすることのできない彼女はそのままその上に横たわる。
今宵の彼女の役目は男のための肉枕になることだったのだ。
男に抱きつかれ、男のものを体内に咥え入れ、そしてなすすべなく扱われるだけの抱きまくら。
いやさ、オナホールといったほうがいっそ正しい。
もはや彼女は、男にとってただの肉穴にすぎないのだから。
声は出せない、ただ感覚だけが彼女にはあり、そして不快な快楽が彼女の体に伝わってくる。
たすけて。
悪に屈して、体は完全に自らのものではないこの現状で。
たすけて。
彼女たちは、心すらも失ってしまう前に。
たすけて。
ただただ、祈ることしかできない。
助けて。
願わくば、まだ自らが人間であるうちに。
そんなヒロインの、いやさ肉枕の思いなど知る由もない。
男にとってそれは、ただの性欲処理のための道具にすぎないのだから。
寝る前の、普段と何も変わることのない行為に過ぎないのだから。
それはどちらかと言えば、性交と言うよりは自慰に近しいのではあるのだろうが。
かくしてシティの日常的な夜は更けていった。




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基本的に要らんことをつらつらと書いてます
エロとか変脳とか悪堕ちとか

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