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ぶっちぎりスカイハイ

「竜虎……表じゃあ探偵なんてやってるんだったか……忌々しい。もともとあの力は、我らのものになるはずだったというのに」

「けど、そうはならなかった」

「ああ、そうだ……我らは、我ら狂畜党はどこで間違ったのだろうな。今頃は、あの四神器の力でもって地の底に眠る女神を蘇らせていたはずなのに……ああ、忌々しい。パンチドラゴン、キックタイガーめ……」

「さっき、キックタイガーと二級怪人が接敵したんだけど」

「ああ? その結果を聞くまでも、映像を見るまでもなかろう。結果なんてわかりきっておるわ」



図書館から飛び降りた虎子の体に稲妻がまとわりついていく。足先に絡みつき、天を向く髪の先までそれは伸びていった。

「来い、白虎!!」

彼女の言葉に合わせて、合わせられた足の先に八卦の陣が出現する。きらめく八卦の陣をその体がすり抜けると、次の瞬間には轟音と共に雷を身にまという猛虎が地面へと降り立っていた。鋭い印象を受けるアーマーが下半身をまとい、上半身はじゃまにならない程度に軽装だ。着地の衝撃を大きくしゃがみ込むように身を縮めて吸収した猛虎は、顔を上げ爆炎を上げるビルを眺めた。

「いる」

彼女の目は煙と爆炎の向こうに怪人の姿を感知する。そして次の瞬間、雷鳴が走った。足に蓄えられた衝撃をそのまま速度に変えたかのように、まさに目にも止まらない超速度が実現する。通り過ぎた地面を焼き、踏み込んだ箇所に深く足あとを刻みながら彼女は瞬きよりも早くその距離を踏破した。

「ふぁーいあー!!」

怪人は、なんとも間抜けな格好をしていた。腰ミノ一枚に炎の吐いた棒を両手に持ったダンサーだ。

「リンボー!!」

異様に腰をせり出すような動きで炎を振り回し、そこかしこに火を放っては近くにいる従業員を驚かせている。

「ひっ!?」

従業員の一人が、怪人の操る炎に飲み込まれた。一瞬にしてそれが身に着けていた服は燃え尽きその代わりに腰ミノのみの姿となってしまう。

「り、リンボー!!」

そしてその状態で大きく背を反らせ、おもいっきり腰を付きだした状態で怪人の方へと歩き出すのだ。

「ほっほー、いい調子だ!! そのままモット腰を出して!!」

怪人が上機嫌にそう言うと、女性はいやいやと言いながらもその言葉に従い怪人に向けて腰を付きだしてしまう。

「インサート!!」

その腰を、怪人の両手がしっかりと掴んだ。そして、そのイチモツを勢い良く彼女の中へと突きこむ。

「ふぅっ、はぁっ!! ハイヤァァァァ!!」

周囲からズンドコズンドコと謎の音楽が鳴り響き、その音に合わせて怪人が腰を打ち付けた。

「あっ❤ やっ❤ なにこれおかしいっ❤」

それが気持ちいいのか、妙な体勢のまま女性は嬌声を上げ始める。

「ふははー、このまま我が精液を受け入れて貴様もリンボー人間になってしまうのだ!!」

なんという事か、この怪人の目的は何の罪もない一般人を奴隷に変えてしまうことだったのだ。

「い、いやぁぁぁ」

女性の悲痛な叫びがこだました次の瞬間。

「ひぎゅっ!?」

そこから、怪人の姿が掻き消えていた。女性は開放され、姿はそのままに気を失ってしまっている。

「ごめんね、遅くなって」

そして、先程まで怪人がいた場所に金色の戦士が立っていた。雷鳴をまとった戦士は女性に小さく頭を下げると、遥か遠くに蹴り飛ばされた怪人を見やる。

「さて、覚悟はできてるな怪人。ここで会ったが運の尽きだ。このキックタイガーが、完膚なきまでに蹴り潰してやる」

壁に大きくめり込んで身動きひとつ取れない怪人へ向けて、稲光が飛んだ。いや、それは稲光ではない、そう見まごうほどの速度で動いたキックタイガーだ。

「でやぁっ!!」

勢い良く蹴り飛ばすと、怪人がさらに向こうで吹き飛ばされる。途中にある壁もお構いなしだ。紙切れのように壁をつき壊しながら吹っ飛んだ怪人は、ボロボロに成った体で立ち上がりタイガーの方を睨みつける。

「おおおお己キックタイガーめぇ。俺様のお楽しみを邪魔しおってェェ!!」

両手に持った炎のステッキを振り回し、周囲に炎の渦を巻き起こらせた。

「このリンボー怪人、ファイアーバウアーが相手だァァァ!! この炎の渦、恐れぬというのであればかかってウボァ!!」

「口上が長いっ!!」

タイガーが上から降ってきてバウアーを踏みつけた。大きくバウンドしたバウアーの体に追いついたタイガーが思い切りかかと落としを見舞う。ビルの谷間に派手にバウンドを繰り返しながら、その体が地面へとめり込んだ。

「……二級ってとこか」

犬神家状態で上半身をめり込ませた怪人に近寄ると。彼女はふと周囲の異常に気がついた。怪人はそこにいるにもかかわらず、周囲から火の壁が迫ってきているのだ。

「なに?」

見れば空中に怪人の持っていたステッキが放置されてる。しかもそれは、主がないままに高速回転を続け炎の渦を起こし続けていたのだ。

「かかったなぁキックタイガー、貴様のその美脚。俺がたっぷりと味わい尽くしてやるよォォォ!!」

キュポンと音を立てながら上半身を引きぬいたバウアーが、タイガーを指さして笑い声をあげた。そのステッキの炎に撒かれたモノはすべての装備を焼かれ、腰みの一兆になってしまうのだ。そうなってはもはやリンボーをしたくてたまらなくなり、それをしながら犯されることが最上になってしまう。バウアーの目の前で、炎の渦が閉じタイガーの体を焼き上げた。

「ひゃぁははははやったぞ!! この俺がっ!!」

狂ったような笑いをあげた瞬間。
ドン、と音がなった。
一瞬遅れて地面が揺れ、そして一瞬遅れて地面が隆起する。そしてもう半歩遅れて、衝撃波がバウアーの体をふっ飛ばした。巨大な土煙が上がる、稲光が走りながら立ち上がった煙の向こうに、炎の渦はもう見えない。

「……落第点。芋だって焼けないわよ。そんなチンケな火力じゃあね」

煙の向こうから音を立てて、誰かが歩いてきた。煙から出てきたその姿は疑いようもない。金色の輝きを見まとった戦士、キックタイガーだ。

「あば、アバババ……」

恐ろしいものを見たといった様子で、バウアーが口をパクパクさせた。

「言いたいことはある?」

目の前に立ったタイガーが、トントンと爪先で地面を蹴りながら尋ねると。

「お、俺を倒すと内蔵された火力炉が暴走して大惨事になるぞ……」

しかし、その言葉にもタイガーはすました顔だ。

「う、嘘じゃない!!」

「そ、まあそれなら被害のないところでやればいいだけよね……聞いてるんでしょ、キャプテン?」

耳を抑えながら、タイガーが上を向いた。その向こうにあるのは、ビルとその先に覗く青空だけだ。

「い、いま……」

コソコソと逃げ出そうとする怪人の腰を踏みつけて動きを止めると。

「さて、それじゃあ……そんな迷惑な野郎は宇宙にポイね」

右足を引き、そこに大きく力をためた。巨大な稲光が音を立ててそこへと集まっていく。その輝きが頂点に達したと同時に、それは光よりも早く動いた。

「飛んでけ!! ライジングシュート!!」

音は、大分たってから響いた。音がなる前に怪人は大きく宙に浮き、ビルを越え、シティを離れ、国を抜け、山を上回り、そして地球を離れた。怪人にとっては、一瞬にも満たない時間の中で過ぎていった光景だ。青空が消え、無限の暗黒が広がる宇宙が目の間に現れるにいたり、彼はようやく自らの置かれた状況を理解する。そして、目の前に現れた巨大戦艦のことも。非常識だった。そんなものが浮いているなんて。馬鹿げたそれは現実に目の前にあって、あまつさえその砲塔を彼へと向けているのだ。どうしようもない。砲塔のきらめきと、衝撃が彼が最後に感じたものだった。

「……ナイスショット」

怪人の消え去った空を見上げたキックタイガーは、周囲の惨状を見渡した。超高速の戦闘で発生した衝撃の余波でそこかしこが崩れてしまっている。

「ちょっと、やりすぎたかな……ミルキィスターズに怒られちゃいそうねぇ」

はは、と後頭部を掻いた彼女の肩に、とんと誰かが手をおいた。

「ええ、そうですわね。キックタイガー、あなたはいつも派手すぎますわ」

「……ご、ゴールドナイト……」

振り向けば、軽装の格好をした戦士がそこにいた。目を引くのは巨大な乳房とドリルのような髪の毛だ。彼女こそ、巨大集団ミルキィスターズの代表にして最大戦力だ。

「ええ、私です。戦闘の補佐や後処理を全般的に行うのが我々ミルキィスターズですが……ええ、もちろんこれをもとに戻す我等のみにもなっていただけますわよね。なんかもうあなたには効果がうすいきも致しますが……始末書、書いて頂きます」

「はぁい……」

「ところで、調査の方は?」

「良好、と言いたいんだけどね……不自然に資料が少ないわよこの街。この図書館で何もなかったら、それこそどうしたら良いか……まあ、膨大な資料をひっくり返すだけでも面倒なんだけどねぇ」

「そう……」

「あ、始末書後でいいかしらん? あっておきたい娘がいるのよ」



「お、無事だったわね」

「はい、お陰様で」

図書館に戻ってきた虎子は、そこで先程まで話をしていた少女金剛寺輝石を見かけてホッと胸をなでおろした。

「あの娘は?」

「さっきまで一緒だったんですけど、お母さんが迎えに来たみたいで」

「そ、なら良かった」

「……あの、正義のヒロイン、なんですね」

「そうよ」

彼女は胸を張ってそう言ってから、周囲を見回し。

「これ、だれにもいわないでね」

「は、はい」

「よろしい……」

念押してそれから彼女の手に何かを握らせた。

「これは?」

「勇気を持ってあの娘を守った君へのプレゼントだ、その勇気を忘れないでね」

「あ、ありがとうございます」

「と言ってもただの飴だから、恐縮しないでで食べてよね」

「はいっ!!」

輝石は破顔し、それから思い出したように右手に持っていた本を差し出した。

「あの、これ……避難してたそこの資料室で見つけたんです。本棚の間に挟まってて、見つけにくそうだったんで」

「あら、そう。ありがとうね」

「はい、それじゃあ。あの、ありがとうございました」

本を渡した輝石は頭を下げると。そのままきびすを返して図書館を後にした。

「もちょっとゆっくりしてけばいいのに」

そんな彼女を見送った虎子は、何気なく渡された本に視線を落とし。

「……この本、まさか……っ」



さて、図書館を飛び出した我らがヒロイン金剛寺輝石はスキップしながら自己嫌悪に陥るという高等テクニックを披露していた。

「うわーい、ヒロインさんに助けてもらっけど馬鹿馬鹿馬鹿、私の馬鹿。なんでモット仲良くなったり私も変身して共に戦ったりできなかったんだー畜生!! 弱気で意気地なしな自分がにくいっ」

百面相の如く表情を変化させながら、それでも嬉しそうに彼女は帰路についたのだった。ああ、正義の味方に助けてもらう。なんて嬉しいことなんだろう。

「うん、だから私は……やっぱり誰かを助けたい」

なんとなく決意も新たに、夕暮れに染まり始めた町並みを下っていくのだった。

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