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憑神縁日事変 6

憑神縁日事変 飴屋


「いいお祭りだねー」

「ふふ、そう思ってくれたなら良かった」

褒められて悪い気はしない、花火は笑顔を見せた。

「なんていうのかな、安心できるっていうか。ほっとするっていうか」

花火と話をしているのは、かつて花火と同級生だった娘たち二人だ。
彼女たちは、どちらも可愛らしい浴衣に身を包んで祭りを満喫しているように見える。

「なんか、久しぶりにお祭り来たなー。最近は勉強ばっかりだったし」

そう言って、んー、と大きく背伸びをすると。

「今日は、目一杯楽しもう」

といってあたりを見回した。

「そうしていくといいんじゃないかな」

そんな友人の様子に微笑んで、花火は頷く。
限界まで伸びをした彼女は、ふと思い出したように周囲を見回した。

「あれ、アキとミーちゃんは?」

そういえば、もっとたくさんできたような。
そう思った彼女は、傍らにいるもう一人にそう尋ねた。

「もう、忘れちゃったの。アキは綿あめ、ミーちゃんはフランクフルトになったんじゃない」

その言葉に、ポンと手を叩いて。

「そうだったそうだった。ミーちゃん意外と肉が詰まってて美味しかったねぇ」

「そうだね。アキも甘くて美味しかったよ」

思い出して笑みを浮かべる二人に花火は。

「うー、そんな話聞いてたらお腹すいてくるじゃん」

そういって腹のあたりに手を当てるのだった。

「あはは、ごめんごめん。なにか食べに行く?」

「んー、いや。ここで済ませるからいいよ」

友人の提案を断った花火は、二人のうちの一人に手をかけた。
両手で軽く押すような動きをすると、相手の体がぐにゃりと曲がる。

「ん、そういえば最近見なかったけどどうしてたの」

そのあまりにも異常と言ってもいい光景にもかかわらず、その娘は何事もないかのように花火に尋ねた。
花火は彼女を休憩に加工しながら答える。

「妹とね、お祭り作ってたんだ」

「そっかー。それなら仕方ないねー、学校にはいつもどるの?」

歪な球体となった娘が話すとは、なんともシュールな光景ではあるが、花火も同級生もそれに違和感を覚えることなどない。

「戻らないかな。ずっと妹と一緒にいるよ」

「さっすが、妹思いだね」

「もちろん」

彼女のその言葉に頷いて、花火はその娘をひとのみにしたのだった。
そんな光景を目の当たりにしながらも、もう一人の娘は驚きもせずに話を続ける。

「そうそう、そういえば最近雨宮さんがおかしいのよねー」

「雨宮さんが?どうしたんだろ」

「んー、なんかね。最近ずっと、なにか忘れている気がするって言ってるの」

「へぇ、あの成績優秀な雨宮さんの忘れ物か、なんだろうね」

「すっごい深刻そうだったよ。今日一緒に来てるから、聞いてみたらいいんじゃない?」

その言葉に頷いて。

「そうする。きっと探しもの見つけてあげれると思うし。ところで」

花火はお腹をさすって友人を指さした。

「まだお腹空いてるんだけど、食べていい?」

「んー、私?仕方ないなぁ、私もお腹いっぱいになってるしねー。でも食べ過ぎると太るよ?」

「その時には打ち上げるからいいのよ」

お互いに笑って、花火は友人に手を伸ばしたのだった。



雨宮みずきが、その違和感に気がついたのはつい最近だった。
ふと、家族で撮った写真を眺めていた時のことだ。
そこにははにかんだ彼女と両親が写っている。
それは、いいのだ。
彼女は思う、この写真の私が大事そうに抱いている少女は誰だろう。
妹なんていないはずなのに。
家族の誰に見せても、その少女の存在に気がつかないかのような反応を見せる。
彼女は、参っていた。
それは、それに気づいたあたりから感じ始めた違和感だ。

「何かを、忘れている気がする」

それが何であるのかはわからない。
けれど、ふと思いついたその考えがずっと彼女の頭から離れないのだ。
それが、決して忘れてはならない大事なものであったかのようなそんな印象。

「受験生だものね、疲れているのよ」

先生に相談しても、そんなふうに一蹴されるだけで終わってしまう。
ちがう、ちがうのだ。
違和感は確かに存在し、現実という機械に確かな齟齬を生んでいる。
誰もそれに気がつかない。
彼女自身でさえ、それが何であるかは理解していないのだ。
思春期にありがちな誇大妄想、受験勉強疲れ、妄想、虚言。
大人たちは、他人は、そういって切り捨てる。
そうして誰にも相談できないまま日々を送っていた彼女はある日の帰り道、彼女は花火を聞いたのだ。
パンパンと、空で花開く花火の音を。
そして、何故だろう。
それに呼ばれていると思ったのは。
周囲を見てみると、そこにいる誰もがそう思ったようで。

「祭りか、久し振りに行ってみようか」

誰ともなくそういって、そこに居た全員がそちらへと足を向けたのだった。

「へえ、こんなところに神社があったんだ」

何度も行き来した道であるはずなのに、その神社の存在を初めて知った。
明るく輝く出店の列、規模の大きな縁日だ。
賑やかなその様子に、彼女たちは目を丸くする。
祭り囃子が耳をかすめ、出店の匂いが鼻をくすぐった。

「や、久しぶり」

そして、思いがけない再会。

「花火!!」

たった今思い出したが、最近姿を見かけなかった日比野花火がそこに居たのだ。
彼女は、あまり親しいわけではないのだが。
親しかった友人たちはすぐにも彼女を取り囲んだ。

「ふふ、言いたいことはいろいろあるけどね、せっかくお祭りに来てくれたんだ。楽しんでいっていよ。そうそう、そこのテントで貸浴衣してるんだ。只だから、皆着替えておいでよ」

なぜか、誰もそれに異を唱えない。
めんどくさいということも、思うこともなく、誰もがそれに従うようにテントへと入っていく。

「これはこれは、団体さんさね」

中にいた女性は、同性ながら顔を赤らめてしまうほどに美しい女声だった。

「待ってな、今浴衣を見繕ってあげるさ」

その声には力が宿っているようで、彼女たちは黙って頷いた。
女性は彼女たちをじっと、舐め回すように見てその内の二人を指さした。

「決めた。あんたらが良さそうさね。こっちにおいで」

怪しく手招きされて、それに誘われるように二人はふらふらとそちらによっていく。
そして女性は、その二人の眉間に針を、何事もないかのように刺したのだ。
次の瞬間、まるで風船から空気が抜けるように二人は厚みを失って、そのまま地面にへちゃりと落ちた。
女性はそうなった二人を纏めて、くるくると巻きずしのように巻いていく。
そして、それを一口で飲み込んだのだ。

「ほうら、生地ができるさ」

女性の腰のあたりに付いているロールがカラカラと回りだし莫大な量の布を吐き出した。
その布は今まで見たこともないような不思議な色合いで温もりと、どこかで見たような印象を彼女たちに与えたのだが。
それが何であるかをついに彼女たちが思い出すことはなかった。

「すぐにできるさね」

右手の大きなハサミで布をチョキチョキと切り取ると、左手の針ですぐさま縫いあげていく。
そして、一瞬の内に彼女たち全員分の浴衣が完成したのだった。
着付けまで一瞬で済ますという徹底ぶりで、彼女たちはあっという間に夏祭り装備に身を包んでテントを出てきた。
そこでは、花火が待っていた。

「まあまあ、こんなところで話すのも何だし。お祭り回りながら奥に行こう」

一緒にいたうちの何人かは、彼女についていってしまう。
花火とそれほど親しくない者たちも、おのおの縁日を回り始めた。
彼女も、頭の隅から消えない違和感に首をかしげながら縁日を回ることにした。
回っていて、なんとなく不思議に思ったのは出店に空きがあるということだ
たくさんのデ店がならんでいるのに、店員が入っていない店も見受けられたのだ。
彼女がふと足を止めたその出店も、店員がいなかった。

「飴かぁ」

飴屋、出店にはそう書いてある。
りんご飴などの果実飴、いわゆる飴玉といわれる大玉、それに飴細工のための練りあめ。
それぞれのポップがつているのに、店員も商品自体もない。

「売ってたら、食べたかったかな」

そういえば自分は、こういうのが好きだったなぁとしみじみ思い出しながらつぶやく。
最近はめっきり、食べていなかったが。
そんなことを思っていると、足元に何かがよってきていることに気がついた。

「ふわふわー」

それはふわふわとした白い物体で、ぴょんぴょんと跳ね回っていた。
この縁日でたまに見かける小さい、妖精のような何かの一体だろうと思いそいつを抱き上げる。

「お前は一体なんなんだ?綿あめ?」

最近の綿あめは歩くのか知らなかった。
一人で納得して頷くみずきに、そのふわふわした奴は懐いたように頬をすり寄せる。
甘い香りが鼻をついた。
どうやらやっぱり綿あめで合ったようだ。
自分の予想があたったことになんとなく満足して、そして無意識のうちに言葉を吐き出していた。

「そういえば、あの子も綿あめ好きだったなぁ」

そして、言葉にしてからハッと思う。

「あの子って、だれ?」

自分は今、一体誰のことを思い浮かべた?
思い出の中で浮かび上がったのは、今と同じような縁日。
彼女は、誰かの手を引いていた。
『おねぇちゃん』
親しげにそう言ってついてくる、その姿は……

「りん、ご?」

ふと、そんな名前が頭をよぎる。
口に出してみれば思うよりもずっと馴染んで、そしてそこから滝のように記憶が蘇ってきた。
りんご、そうりんごだ。
雨宮りんご、彼女の大事な、大切な妹。
それがいなくなったということに、なぜ気がついていなかったのだろう。
なぜ誰もそれを思い出しもしなかったのだろう。
そう思うと悔しくて、そしていないという現実がようやく襲ってきた。
そして、まるで自分だけが別の世界にキてしまったかのような孤独感も襲ってきて。
涙がこみ上げてきた。
人の行き交う縁日の中で座り込んで、ポロポロと涙をこぼす。
しかし人々はそれを気にしないどころか、目にもとめようとしないのだ。

「ふわふわー」

そんな中でただ綿あめの妖精だけが、彼女を慰めるように甘い香りのする体をこすりつけていた。

「ありがとう」

まるで世界から隔絶されたようなそんな孤独の中で、ただひとり自分を理解できるものに出会ったかのような言いようのないうれしさに、彼女は思わず妖精を抱きしめていた。
果たして、それで奇跡が起こったとでもいうのか。
抱きしめられた妖精は、どこか呆然と彼女の顔を見上げ。

「おねぇちゃん?」

と、つぶやいたのだった。
頼りなさげで、どこか独特なそのイントネーションは間違いなく。

「りんご……りんご!!」

彼女の妹であった。



パンパン、とどこか乾いた拍手の音が彼女の耳に届いた。
振り返ってみれば、少女がひとり立っている。

「お姉さんすごいね。気づいたのは初めてだよ。私もまだ修行が足りないなー」

何を言っているかは、わからない。
けれどなんとなく、その少女がこの状態を創りだした犯人で有ろうことは想像できた。
無意識の内に、腕の内のふわふわとした妹をぎゅっと抱きしめる。
そんな彼女に微笑んで、少女はどこからかお祓い棒のような器具を取り出した。
気づけばその格好も、まるで宮司のような格好に変わっている。

「頑張るお姉さんは好きなのです。だから、ご褒美なんていかがでしょう」

彼女に向けて器具を振るうと、腕のうちで変化が起きた。
まるで重さなんてなかったかのような状態だった妹が、急に大きさとその重さを取り戻していったのだ。
驚く彼女の見る前で、妹はドンドンと人の姿を取り戻していき。
そしてついには。

「おねぇちゃん!!」

彼女の記憶にある通りの姿になったのだ。

「りんごぉっ!!」

抱きしめた。
ぎゅっと、力強く。

「もう放さないから!!」

そう、この手を二度と離すもんか。
大事な大事な妹だ、ずっとずっと守ってみせる。
それに答えるように、りんごも彼女の体をぎゅっと掴み返してきた。

「うんうん、よきかなよきかな」

それを後ろで見ていた少女はそう笑って、器具を振るった。

光も音もないが、それでも変化は劇的だ。
彼女の体が徐々に半透明になっていき、その内部は空洞になった。
胸は、まるで駄菓子屋で飴を入れてあるもののように変化し、透明の蓋がつく。
そして下半身はどろりと溶けて形を失ったあと、同じように透明になって中身が空洞になった。
丸く形を整えられたそれは、ガラスのビンのようだ。
そしてその中には色とりどりの飴玉がぎっしりと詰まっている。
りんごをぎゅっと抱きしめる腕にも、変化は訪れる。
ドロドロとその形が溶けるように姿を失っていき、色も透明になっていくのだ。
甘い香りが漂い始め、それがどろりと溶け出してりんごの体をゆっくりと覆っていく。
肩は、それからつながる缶になった。
腕を形作る水飴は、そこから伸びている。
そして最後に、頭が変化していく。
サラリとした髪が、ドロドロと姿を変えていくのだ。
それは腕を構成する水飴と同じように甘い香りを漂わせ始める。
水飴となった髪は滴って、りんごの顔に落ちそれをゆっくりと覆っていった。
耳は割り箸が飛び出てるような形に変わり、背中にも大きな割り箸が現れるとそこで変化は止まった。
そう、彼女は飴屋憑き神になってしまったのだ。

「おねぇちゃん?」

変化を目の当たりにして、りんごは心配するような声を上げた。
その声にゆっくりと目を開いた彼女は微笑んでその頭をなでる。

「大丈夫ダヨリンゴ」

そうすると、より一層の水飴がリンゴの体を覆っていく。
もはや、体中水飴で覆われていないところはないと言えるほどだ。
それによって徐々に固まっていくリンゴの体を撫でながら。

「オ姉チャンが立派ナりんご飴ニシテあげるから」

取り出した割り箸をさしたのだ。
そうすると、リンゴの体は徐々に小さくなっていき固まった水飴はリンゴのように赤い色になった。

「ウン、イイ出来」

その出来に頷いた彼女は、それをお社憑き神に差し出す。
何のためらいもなく。

「ありがとっ」

ぺろりとなめたお社憑き神は、感嘆の声を漏らした。

「うーん、やっぱり雨宮さんはおいしい飴になるねぇ」

その言葉に、飴屋憑き神は嬉しそうに笑った。
舐めながら、もう一つ注文をする。

「そうだ、飴細工見てみたいな。ちょうど、いい飴がきたみたいだし」

そちらを向けば、彼女と一緒にやってきた同級生が二人向かってきている。

「おーい、みずきー」

手を振ってやってきた一人を、両手を合わせて作った大きな水飴でドップりと飲み込む。
分厚い水飴の中で浮かぶような格好で、友人は動きを止めた。
飴屋憑神はせおった割り箸を取り出して、その水飴をくるくると巻き取り始める。
すると、友人も水飴になってしまったかのようになんの抵抗もなくくるくると巻き付いていくのだ。
両手で持った割り箸を器用に使って水飴を練り上げる。
友人はうにょうにょと姿を変えて、そしてついには溶けて混ざって元の形がわからなくなってしまった。
練りに練ってある程度硬くなった水飴から、割り箸を器用に使って形を作っていく。

「そうだなぁ。やっぱり鳥がいいな」

お社憑き神のその注文に頷くと、そこからはまさに神業。
すっと、なでるようにしたり割り箸で形を変えるたびに水飴は鳥の形なっていくのだ。
そしてすぐにも、白鳥の形を模した飴細工が完成した。

「すごい!!」

感動したような声を上げて、お社憑き神は手に持っていたりんご飴を噛み砕くいて飲み込むと嬉しそうに飴細工を受け取った。

「食べるのもったいないなー。食べちゃうけど」

悩んだ挙句、頭から齧りにかかることにした。
それを微笑ましく眺めながら飴屋憑き神は呆然と立ち尽くす友人を胸元から瓶に放り込み、飴玉へ変えてしまっていた。
そして、彼女の頭の上ではりんご飴の形をした小さな子憑き神が懐いたようにピョンピョン飛び跳ねていた。



「ん、覚えていた?」

「そうなの、なんとなくって感じだったみたいだけど」

縁日に取り込まれ者の記憶は失われる。
それが存在しないかのようになるはずなのに、みずきはそれを覚えていた。
不思議に思った祭里と花火は、詳しそうな浴衣に相談に行くことした。

「まあ、霊力が高かったんだろうさ。そういうのが成長すると、縁があれば退魔師になったりするさね」

「へぇー」

「でもまあ、それほど大きな霊力を持ってる奴なんてそうはいない。訓練を積んでいない状態で、みずきほどの霊力持っているようなのなんて本当に稀さね。まあ、つまり。そういうのをドンドン取り込んでいってる祭里の魔力はどんどん強くなる。そして、向こうは減ってるわけだから。ドンドン見つかりにくくなっているってことさね。問題ない問題ない。私はもっと客が増えてくれれば沢山浴衣作れて幸せさ」

以前だったら絶対に言わないようなことを言って、浴衣はカラカラとロールを回して笑った。





りんご飴は食べるのが難しいですよね。
スプーンで表面割って中身をすくって食べるという方法を教わって依頼その方法で食べてます。
飴細工は本当に芸術です、動画とか見惚れるレベル。

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