ディアクリスタル 再誕
ディアクリスタルは、妖しい工場に足を踏み入れていた。
最近頻発している謎の怪人による襲撃事件。
その犯人が、ここに隠れ住んでいると予測したのだ。
「誰も、いなさそうだけど。敵は液体金属怪人どこに潜んでいるかわかったものではないわ。気を付けないと」
自らの輝きで周囲を照らすディアクリスタルは、足元にたくさんのメモリースティックが落ちていることに気がついた。
気になって調べてみれば、その全ての表面に漢字一文字や、何かを記しているであろう記号が書かれている。
「何か、手がかりになりそう」
彼女はそのいくつかを選んで持ち帰ることにした。
そのまま抜き足差し足、泥棒しているみたいだわね正義の味方なのに、などと思いながら進んでいく。
やがて彼女が目にしたのは、銀色の光沢を放つ液体の貯められたプールだ。
報告にある怪人の色と全く同じで、いかにも妖しい。
「怪人の元かしら」
不審に思った彼女はそれに手を伸ばし、触れてしまう。
指の先に少しだけ付けて見てみるが、専門家でもない彼女にそれが何であるかなんて分かるはずもない。
「体に悪かったら嫌だな」
それを取ろうと、常備しているアイテムクリスタルハンカチで拭くのだが。
「あれ?」
取れない。
頑固な油汚れも一発で取れるクリスタルハンカチで何度ぬぐっても、それは取れないのだ。
しかもあろうことかそれは、指先からドンドンと腕に向けて登ってきていた。
体中に奇妙な感覚を走らせつつ、銀色の領域が拡大していくのだ。
「ひぃっ」
思わず悲鳴を上げて、それを振り払おうと手をブンブンと振ってしまうが。
それは取れることなく、なんでもない様に腕を登ってくる。
「あ、あひぃ、あ……」
それが彼女の体を少し登るたび、彼女はくすぐったいような心地良いような、ムズがいゆい感覚にさらされる。
それは、彼女を構成する全身の細胞が挙げる、快楽の声だった。
その珍妙な金属は、彼女の細胞ひとつひとつを犯し、侵略していたのだ。
「手ガ動カナイ……」
やがて彼女の手は完全に金属に犯され、彼女のいうことを効かなくなる。
だらんと垂れ下がった手から、まるで朝露のように銀色の雫が垂れた。
それが彼女の一部であることなど、言うまでもない。
液体金属に侵された彼女は、自らも液体金属になってしまったのだ。
落ちた雫は足の上にのり、そこから再び侵略を開始する。
腕を犯した液体金属も、残っている生身の部分を侵略するように動き出した。
それから、ほとんど時間はいらなかった。
血管のように頭へ走った銀の筋が彼女の脳を犯し、彼女は薄れ行く自意識の中で己の敗北を認めることしかできない。
もう、体中は銀色の光に覆われている。
かつてあったクリスタルの輝きは、もはやないのだ。
自らのものであった自らのものでない、無機質な声をあげながら。
彼女は、生まれ変わろうとしていた。
「足モ体モ動カナイ……記憶領域、認識領域、削除……ア、私ガ、消エル……命令受信器官追加、全行程ノ終了ヲ確認。待機モードヘ移行」
今や彼女の体は、スライムのように波打つ液体金属になっていた。
もはや人の体でなくなった彼女の体が大きくたわむように動くと、その形が一瞬にして崩れ、まとまり、小さな球体となってしまったのだ。
それはまさに、卵のように見える。
物言わぬ金属の卵となってしまった彼女の周囲で、変化が起きた。
液体金属の貯められたプールが、大きく波打ったのだ。
そうかと思えば、次の瞬間にはそこにたくさんの液体金属怪人が立っていた。
彼女たちは向きあって、無機質な声で話し始める。
「カカッタ」
「カカッタ」
「新シイ娘ネ」
「キレイナ卵子ニナッテル」
「受精サセテアゲマショウ」
「受精!!」
「受精!!」
「ドノデータ端末ガイイカシラ」
「アラ、コンナトコロニ端末ガ。コノ娘ガ持ッテイタノネ。コレヲ使ッテアゲマショウ」
「受精!!」
金属の卵となった彼女の近くに落ちていたメモリースティックを拾い上げた怪人は、それを卵の表面へと差し込んだ。
その内に入れられた怪人のデータが彼女に注入され。
卵が一瞬ざわつくように波打つ。
ボコボコと表面が沸騰するように盛り上がり、細胞分裂するようにドンドンとラインが入っていく。
幾重にもラインが生まれ、複雑に重なりあい、金属の卵はアメーバのようにその子たちを変えていく。
やがてそれが、朧気な人の形を描くまでになると、変化は急激に収まっていった。
細部が綺麗に変化していき、やがてそこにもとの彼女の意匠を残したあらたなる液体金属怪人が誕生する。
「生マレタ!!」
誕生を祝う声に囲まれて、彼女は無機質な金属の目を開き周囲を見た。
今の彼女は、メモリースティックに刻まれた信号のままに単一命令を繰り返す幼い怪人に過ぎない。
やがて、命令を繰り返し回路が作られ、彼女は立派な怪人になるだろう。
かくして彼女は再誕した。
いいよね、再誕って。
刷り込みとか教育とかできるし
最近頻発している謎の怪人による襲撃事件。
その犯人が、ここに隠れ住んでいると予測したのだ。
「誰も、いなさそうだけど。敵は液体金属怪人どこに潜んでいるかわかったものではないわ。気を付けないと」
自らの輝きで周囲を照らすディアクリスタルは、足元にたくさんのメモリースティックが落ちていることに気がついた。
気になって調べてみれば、その全ての表面に漢字一文字や、何かを記しているであろう記号が書かれている。
「何か、手がかりになりそう」
彼女はそのいくつかを選んで持ち帰ることにした。
そのまま抜き足差し足、泥棒しているみたいだわね正義の味方なのに、などと思いながら進んでいく。
やがて彼女が目にしたのは、銀色の光沢を放つ液体の貯められたプールだ。
報告にある怪人の色と全く同じで、いかにも妖しい。
「怪人の元かしら」
不審に思った彼女はそれに手を伸ばし、触れてしまう。
指の先に少しだけ付けて見てみるが、専門家でもない彼女にそれが何であるかなんて分かるはずもない。
「体に悪かったら嫌だな」
それを取ろうと、常備しているアイテムクリスタルハンカチで拭くのだが。
「あれ?」
取れない。
頑固な油汚れも一発で取れるクリスタルハンカチで何度ぬぐっても、それは取れないのだ。
しかもあろうことかそれは、指先からドンドンと腕に向けて登ってきていた。
体中に奇妙な感覚を走らせつつ、銀色の領域が拡大していくのだ。
「ひぃっ」
思わず悲鳴を上げて、それを振り払おうと手をブンブンと振ってしまうが。
それは取れることなく、なんでもない様に腕を登ってくる。
「あ、あひぃ、あ……」
それが彼女の体を少し登るたび、彼女はくすぐったいような心地良いような、ムズがいゆい感覚にさらされる。
それは、彼女を構成する全身の細胞が挙げる、快楽の声だった。
その珍妙な金属は、彼女の細胞ひとつひとつを犯し、侵略していたのだ。
「手ガ動カナイ……」
やがて彼女の手は完全に金属に犯され、彼女のいうことを効かなくなる。
だらんと垂れ下がった手から、まるで朝露のように銀色の雫が垂れた。
それが彼女の一部であることなど、言うまでもない。
液体金属に侵された彼女は、自らも液体金属になってしまったのだ。
落ちた雫は足の上にのり、そこから再び侵略を開始する。
腕を犯した液体金属も、残っている生身の部分を侵略するように動き出した。
それから、ほとんど時間はいらなかった。
血管のように頭へ走った銀の筋が彼女の脳を犯し、彼女は薄れ行く自意識の中で己の敗北を認めることしかできない。
もう、体中は銀色の光に覆われている。
かつてあったクリスタルの輝きは、もはやないのだ。
自らのものであった自らのものでない、無機質な声をあげながら。
彼女は、生まれ変わろうとしていた。
「足モ体モ動カナイ……記憶領域、認識領域、削除……ア、私ガ、消エル……命令受信器官追加、全行程ノ終了ヲ確認。待機モードヘ移行」
今や彼女の体は、スライムのように波打つ液体金属になっていた。
もはや人の体でなくなった彼女の体が大きくたわむように動くと、その形が一瞬にして崩れ、まとまり、小さな球体となってしまったのだ。
それはまさに、卵のように見える。
物言わぬ金属の卵となってしまった彼女の周囲で、変化が起きた。
液体金属の貯められたプールが、大きく波打ったのだ。
そうかと思えば、次の瞬間にはそこにたくさんの液体金属怪人が立っていた。
彼女たちは向きあって、無機質な声で話し始める。
「カカッタ」
「カカッタ」
「新シイ娘ネ」
「キレイナ卵子ニナッテル」
「受精サセテアゲマショウ」
「受精!!」
「受精!!」
「ドノデータ端末ガイイカシラ」
「アラ、コンナトコロニ端末ガ。コノ娘ガ持ッテイタノネ。コレヲ使ッテアゲマショウ」
「受精!!」
金属の卵となった彼女の近くに落ちていたメモリースティックを拾い上げた怪人は、それを卵の表面へと差し込んだ。
その内に入れられた怪人のデータが彼女に注入され。
卵が一瞬ざわつくように波打つ。
ボコボコと表面が沸騰するように盛り上がり、細胞分裂するようにドンドンとラインが入っていく。
幾重にもラインが生まれ、複雑に重なりあい、金属の卵はアメーバのようにその子たちを変えていく。
やがてそれが、朧気な人の形を描くまでになると、変化は急激に収まっていった。
細部が綺麗に変化していき、やがてそこにもとの彼女の意匠を残したあらたなる液体金属怪人が誕生する。
「生マレタ!!」
誕生を祝う声に囲まれて、彼女は無機質な金属の目を開き周囲を見た。
今の彼女は、メモリースティックに刻まれた信号のままに単一命令を繰り返す幼い怪人に過ぎない。
やがて、命令を繰り返し回路が作られ、彼女は立派な怪人になるだろう。
かくして彼女は再誕した。
いいよね、再誕って。
刷り込みとか教育とかできるし