オリジン
「ダガー……クリスタル?」
オウム返しのように聞き返す。
部屋に入ってきた三人を近くの椅子に座らせると、改めて輝石にむきなおる。
「そう、これが私の研究成果よ。不安定なホープクリスタルは、あまりに危険。無限のエネルギーを秘めているとはいえ、それを相手に利用されるようではかえって邪魔と言っていいわ」
その言葉に、輝石は手を自らの胸に当てた。
体の奥、心臓と半分融合しているホープクリスタルの脈動が、手に伝わってくる。
ホープクリスタル。
希望の結晶。
父が残した唯一のもの。
そして、彼女を縛り付けるもの。
「ディアクリスタルの戦闘記録は見たわ。巌博士が想定したスペックをほとんど下回っている。おそらく、敵が負けたくないと思っているからでしょうね。それを汲み取ったホープクリスタルが、その願いを叶えてしまっているのよ」
ディアクリスタル。
もう一人の自分。
忌々しい結晶の遣い。
自分を戦いへと駆りだす張本人。
研究の成果を披露するように語る言葉が、輝石の中に様々な思いを渦巻かせた。
断片的に浮かんでは消えていくイメージの数々は、自らが手にしてしまった力へ対する負の感情だ。
なぜ自分は、戦っているのだろうか。
そんなことさえ思ってしまう。
「だから私は、パワークリスタルを生み出した。ホープクリスタルより純粋な出力では劣るけど、その分扱いやすくなったの。持ち主本人の願いしか叶えないようになっているわ。そのことを考えたら、むしろ的に出力を下げられるホープクリスタルより強いかもしれないわね」
女の言葉は、聞こえている。
それが意味することも理解できている。
ただ、それでもなお心に思い浮かんだ光景の方が激しく脳裏をよぎるのだ。
炎と轟音、爆発。
熱が飛び交い、悲鳴と破壊を振りまいたあの光景を。
その中にあって。
『…………!!』
一つの言葉が鮮明に頭に残っているのだ。
光景とあいまって、それはまるで言葉が焼き付いているかのような印象を与える。
「そのパワークリスタルをエネルギー源にした強化スーツ。それがダガークリスタルスーツ。悪を駆逐し、世に平穏をもたらすための力」
ふと気づくと、女が目の前まで来ていた。
少しだけぼーっとした頭で、ぼんやりと見上げる。
見下ろす視線は挑戦的で、それはまるで、こちらを試しているかのような。
「だから、正直に言うわディアクリスタル。あなたはもう、戦わなくていい」
「え……?」
言葉の意味を反芻するように、呆然と呟く。
女の笑みが強くなった。
「弱いあなたは、これから私達に守られればいい。そう言っているのよ」
細い指が輝石の頬を捉える。
「知っているわ。あなたが何故戦っているかを」
甘い声が耳元で。
「ねえ、本当はそんなことしたくなんてないのに」
彼女の脳を揺さぶるように囁いた。
言葉は反復し、彼女の中で大きな存在になっていく。
まるでそれは従わなければならない言葉であるようで、重圧のように彼女に重くのしかかった。
ああ、と頷いてしまいたくなる。
いや、そうしてしまえばいいのだ。
一体何のために戦っているのか。
一人だけ危ないことをして、一人だけ大変な目にあって。
犯された回数なんて数え切れない。
もはやまっとうな人間でありえないような犯され方だって日常茶飯事だ。
なぜわざわざ自分からそんな苦しみを背負っているのか。
思い返すまでもない、それは確かに自分で選んだはずの道だったから。
頭はまだどこかぼんやりとしている。
眼の前にいる女の瞳は吸い込まれそうなほどに暗く、深い。
底知れぬその闇が、かえって意識を覚醒させた。
「私は……戦いますよ。これからも」
しっかりとしたその言葉に、女は驚いたようだった。
笑みを崩し、彼女の顎から手を離す。
「……そう、少し驚いちゃった。あなたはまだ惨めに怪人に犯されに行くの?」
「いいえ、怪人をやっつけにいくんです」
迷いのないその言葉に虚をつかれたかのようにきょとんとした表情を見せた女は、堪え切れなくなったように吹き出した。
「あっはっはっは!!そう、そうよね!!戦うからにはやっつけるのよね!!」
そんな彼女の様子が珍しかったのか、背後に座る3人は一様に驚いた表情をみせる。
「ごめんなさいね……なんていうか、久しぶりにこんな気持ちになって抑えられなかったの……ふぅ、ひぃ……もう大丈夫……あなたの覚悟は分かったわ。そして……あなたの意思を無視するようなことをいってごめんなさい。あなたも一人の戦士だったのね」
笑い過ぎで目元に浮かんでいた涙を拭った女は両手で輝石の手をとった。
「でも、あなたの気が向いたらでいいから。あなたのメンテナンスをさせて欲しいの。メンテナンスっていうのも変な言い方ね。体調管理、って言ったほうがいいかしら?あなたのことをもっと知りたいし、それにあなたが協力してくれるなら私の研究ももっと進むと思うから」
その申し出に少しだけ逡巡するが、頷いてその手を握り返した。
女はそれに微笑みを返して、
「ありがとう。これからよろしく、私とそれから彼女たちもね」
そう言われて、輝石は背後に座る三人へ振り返った。
三者三様という言葉がそのまま似合う風貌の彼女たちは、これまた三者三様な視線を軌跡へと向けていた。
興味、無関心、敵意。
もはや珍しいものでない視線をぶつけられながら、輝石は三人に向かってペコリと頭を下げた。
オウム返しのように聞き返す。
部屋に入ってきた三人を近くの椅子に座らせると、改めて輝石にむきなおる。
「そう、これが私の研究成果よ。不安定なホープクリスタルは、あまりに危険。無限のエネルギーを秘めているとはいえ、それを相手に利用されるようではかえって邪魔と言っていいわ」
その言葉に、輝石は手を自らの胸に当てた。
体の奥、心臓と半分融合しているホープクリスタルの脈動が、手に伝わってくる。
ホープクリスタル。
希望の結晶。
父が残した唯一のもの。
そして、彼女を縛り付けるもの。
「ディアクリスタルの戦闘記録は見たわ。巌博士が想定したスペックをほとんど下回っている。おそらく、敵が負けたくないと思っているからでしょうね。それを汲み取ったホープクリスタルが、その願いを叶えてしまっているのよ」
ディアクリスタル。
もう一人の自分。
忌々しい結晶の遣い。
自分を戦いへと駆りだす張本人。
研究の成果を披露するように語る言葉が、輝石の中に様々な思いを渦巻かせた。
断片的に浮かんでは消えていくイメージの数々は、自らが手にしてしまった力へ対する負の感情だ。
なぜ自分は、戦っているのだろうか。
そんなことさえ思ってしまう。
「だから私は、パワークリスタルを生み出した。ホープクリスタルより純粋な出力では劣るけど、その分扱いやすくなったの。持ち主本人の願いしか叶えないようになっているわ。そのことを考えたら、むしろ的に出力を下げられるホープクリスタルより強いかもしれないわね」
女の言葉は、聞こえている。
それが意味することも理解できている。
ただ、それでもなお心に思い浮かんだ光景の方が激しく脳裏をよぎるのだ。
炎と轟音、爆発。
熱が飛び交い、悲鳴と破壊を振りまいたあの光景を。
その中にあって。
『…………!!』
一つの言葉が鮮明に頭に残っているのだ。
光景とあいまって、それはまるで言葉が焼き付いているかのような印象を与える。
「そのパワークリスタルをエネルギー源にした強化スーツ。それがダガークリスタルスーツ。悪を駆逐し、世に平穏をもたらすための力」
ふと気づくと、女が目の前まで来ていた。
少しだけぼーっとした頭で、ぼんやりと見上げる。
見下ろす視線は挑戦的で、それはまるで、こちらを試しているかのような。
「だから、正直に言うわディアクリスタル。あなたはもう、戦わなくていい」
「え……?」
言葉の意味を反芻するように、呆然と呟く。
女の笑みが強くなった。
「弱いあなたは、これから私達に守られればいい。そう言っているのよ」
細い指が輝石の頬を捉える。
「知っているわ。あなたが何故戦っているかを」
甘い声が耳元で。
「ねえ、本当はそんなことしたくなんてないのに」
彼女の脳を揺さぶるように囁いた。
言葉は反復し、彼女の中で大きな存在になっていく。
まるでそれは従わなければならない言葉であるようで、重圧のように彼女に重くのしかかった。
ああ、と頷いてしまいたくなる。
いや、そうしてしまえばいいのだ。
一体何のために戦っているのか。
一人だけ危ないことをして、一人だけ大変な目にあって。
犯された回数なんて数え切れない。
もはやまっとうな人間でありえないような犯され方だって日常茶飯事だ。
なぜわざわざ自分からそんな苦しみを背負っているのか。
思い返すまでもない、それは確かに自分で選んだはずの道だったから。
頭はまだどこかぼんやりとしている。
眼の前にいる女の瞳は吸い込まれそうなほどに暗く、深い。
底知れぬその闇が、かえって意識を覚醒させた。
「私は……戦いますよ。これからも」
しっかりとしたその言葉に、女は驚いたようだった。
笑みを崩し、彼女の顎から手を離す。
「……そう、少し驚いちゃった。あなたはまだ惨めに怪人に犯されに行くの?」
「いいえ、怪人をやっつけにいくんです」
迷いのないその言葉に虚をつかれたかのようにきょとんとした表情を見せた女は、堪え切れなくなったように吹き出した。
「あっはっはっは!!そう、そうよね!!戦うからにはやっつけるのよね!!」
そんな彼女の様子が珍しかったのか、背後に座る3人は一様に驚いた表情をみせる。
「ごめんなさいね……なんていうか、久しぶりにこんな気持ちになって抑えられなかったの……ふぅ、ひぃ……もう大丈夫……あなたの覚悟は分かったわ。そして……あなたの意思を無視するようなことをいってごめんなさい。あなたも一人の戦士だったのね」
笑い過ぎで目元に浮かんでいた涙を拭った女は両手で輝石の手をとった。
「でも、あなたの気が向いたらでいいから。あなたのメンテナンスをさせて欲しいの。メンテナンスっていうのも変な言い方ね。体調管理、って言ったほうがいいかしら?あなたのことをもっと知りたいし、それにあなたが協力してくれるなら私の研究ももっと進むと思うから」
その申し出に少しだけ逡巡するが、頷いてその手を握り返した。
女はそれに微笑みを返して、
「ありがとう。これからよろしく、私とそれから彼女たちもね」
そう言われて、輝石は背後に座る三人へ振り返った。
三者三様という言葉がそのまま似合う風貌の彼女たちは、これまた三者三様な視線を軌跡へと向けていた。
興味、無関心、敵意。
もはや珍しいものでない視線をぶつけられながら、輝石は三人に向かってペコリと頭を下げた。